New York Specialについて③オリジナルのNYSとは?

おそらく1974年春のことであったと思います。
Ted Devlet氏のマンションにおいて、Devlet氏他数人が主催するNew York City Custom Knife Collector’s Clubの展示即売会が開かれ、ラブレス氏は満を持してニューヨーク・スペシャルを出品しました。
作品はショップナンバー832から838の7本、そしてこの7本のみが正式な意味で「オリジナルのニューヨーク・スペシャル」と呼べる個体になります。

ちなみに今ではご存じの方も多いと思いますが、ラブレス・ナイフに付けられた番号は通常「ショップナンバー」等と呼ばれ、一般的な「シリアルナンバー」とは異なり、単にナイフとそのナイフ用のシースを紐付けるためのメモ的なものです。
番号の付け方は、まさに「適当」でした。その時頭に浮かんだ番号を付ける時もあり、たまたま窓の外を見て目についた車のナンバーから取ることもあったようです。(ある方はこれを「grabbed from the air」と表現されていました。)
付け方が適当ですので、当然同じ番号の別作品もたくさんあります。
832から838は連番になっていますので、ラブレス氏は当初から7本を作ると決めて番号の振り付けを行ったものと思われます。(気分により最初に832を決めて順送り、もしくは838を決めて逆送り)

ラブレス氏の自信とは裏腹に、ニューヨーク・スペシャルは全く売れませんでした。当時の相場としてはあまりに高額過ぎたのです。
確かにインパクトのあるデザインとグラインドとはいえ、「なんで用途の良くわからないこの小さなナイフがこんなに高いの?」という感じだったのでしょう。

さてショーが終わり、ニューヨーク・スペシャルは7本とも売れずに残ってしまいました。
一年前から話をして西海岸からわざわざ参加してもらった事情もあり、交通費もかかっているので、さすがにこれはまずいということになったのでしょう。Devlet氏はメンバーと話し合って7本のうち6本を主催者側3人で分けて購入することに決め(Lou DeSantis氏が3本、Ted Devlet氏が2本、Leonard Marx氏が1本)、残る1本はラブレス氏が持ち帰りました。
ちなみに当時の価格は1本350ドル…タイムマシンが欲しいです。
こうしてオリジナルのニューヨーク・スペシャル6本は、Devlet氏のショールームから旅立っていきました。ラブレス氏も程なく自らが持ち帰った1本を売ったと思われます。

現在、オリジナルのニューヨーク・スペシャルの本数についての見解は、人によって様々です。
多くの場合、これはディーラーもしくはコレクターが「オリジナルの7本+自分が持つニューヨーク・スペシャル」をオリジナルと主張することから来ています。
実際、真の意味ではオリジナル以外の、しかしオリジナルと同じ、もしくは似た仕様のニューヨーク・スペシャルが複数存在します。
ただし、それらは後に作られたものですので、当然ショップナンバーはバラバラです。オリジナルと同じく百の位が「8」のものが多いようですが、百の位が「5」のものもあったりします。
ニューヨーク・スペシャルはショーのための正式なexclusiveというわけではありませんでしたので、後になって「あれが欲しいんだけど」と要望されたコレクターのために、後年ラブレス氏が追加で何本か製作したことは確かです。
ただし多くを作った形跡はありませんので、一応ラブレス氏の中ではexclusive的な思いはあったものの、断りにくい事情があったような際には、そうしたオリジナルの形状に近い追加ニューヨーク・スペシャルを作ったものと思われます。
また後年、ラブレス氏は一目見てオリジナルとは異なる様々なバリエーションのニューヨーク・スペシャルを多数作っています。