Jess Hornさんのこと③

ご夫婦での旅行に出発される少し前、Jessさんからメールが来ました。2009年5月のことでした。
読んで驚きました。
「もしまだ興味があるなら40周年モデルを譲っても良いと思っている。できれば出発前に返事が欲しい。細かなことは6月に戻ってから話そう」そんな内容と、Jessさんの提案される金額が書いてありました。
突然のことで、ちょっと信じられない気持ちでした。
自分に話をいただけたことが驚きと共に素直にうれしく、早くも頭の中は自分の元に来るかもしれない作品のことで一杯になりました。
もちろん私の経済状況で購入するには手持ちのコレクションを何本か売却しなければいけません。
私は急いでその算段を始めました。
Jessさんご夫婦の大きな旅行の直前ということもあり、このお金がお二人の役に立ってくれればいいなと思いました。
楽しい旅行をお祈りしますという言葉と共に「譲渡の件、よろしくお願いします」と私は返信を送りました。

Jessさんと奥さんが旅行から戻られて何度かのやり取りの後、Jessさんがずっと手元で保管されていた40周年記念モデルはFedex便で遠く離れた私の家にやってきました。
何度かショーテーブルの上にアクリルケースに入って置かれている写真を見た、あのナイフでした。
ボリュームのあるブレードデザインで、重厚感あるフォルムが目を引く作品です。
何となくどこかJessさんのようだなと、ふと思いました。
その日からしばらくの間、私は各部の造形や感触が頭に入るほど毎日その待ち焦がれていた作品を眺めました。
このナイフがJessさんと一緒に各地のナイフショーを旅して、長くJessさんの家にいたのかと思うと不思議な気持ちになりました。
もし物にも意思があるのなら、今故郷のアメリカを離れて日本にいることをこのナイフはどう思っているのかなと時々想像します。
快適に過ごしてくれているといいなあ。

それからも折に触れJessさんとのやり取りは続きました。
ギフトということでJessさんがずっと保管されていた昔からのカタログや古い写真、プライスリスト等一式を送っていただいたこともありました。
ある資料には付箋が貼ってあって「このナイフは盗難に遭った」と書かれていたりとJessさんの歴史を感じるものでした。
そうした資料はすべて、今もファイルに入れて大切に保存しています。

Jessさんからいただいた昔の資料の一部です。(付箋はJessさんによるもの)

jess-horn-ジェス‐ホーン
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