New York Specialについて①ロゴの疑問

ニューヨーク・スペシャルについては、みなさんもその姿がすぐ頭に浮かぶことでしょう。
ラブレス・ナイフの中でも最も有名なモデルであり、私にとってもナイフに興味を持ちだした頃から特別な存在でした。
いくら四面グラインドの凝ったナイフとはいえ、巷で目にするその価格は理解しがたいほどに高額であり、なぜそのような金額が付くのか自分にとって不思議なナイフでした。

リアルタイムでの記録がほとんど取られていなかったこともあり、ラブレス氏のことについては今日でも明らかでない内容がたくさんあります。
そしてニューヨーク・スペシャルというモデルについても、そもそも何年に作られたのかさえ、いまだにはっきりとはしていません。
ラブレス氏に関する資料として最も有名な「Living on the Edge(通称グリーンブック)」には、ニューヨーク・スペシャルの製作年は1972年となっています。
また、かつてLou DeSantis氏も日本の書籍に掲載されたインタビュー記事の中で、ニューヨーク・スペシャルは1972年に作られたと言われています。

ご存じの通り、ニューヨーク・スペシャルにはRiversideのフットボールロゴが付いています。(ちなみにフットボールロゴの中でも最小サイズのものです。)
ラブレス氏がRiversideへ工房を移転したのは、おそらく1973年の後半であったと思われます。
もしもニューヨーク・スペシャルが1972年に作られたのであれば、そこには工房移転前のLawndaleロゴが付いているはずです。
このことが引っかかり、私は10年程前にできる限りの調査をしてみました。
様々な資料に当たり、関係者の方々にもメールで問い合わせをしました。
当時ですら工房移転やニューヨーク・スペシャルの製作等の出来事から40年程の年月が経っていたわけで、関係者の方々の記憶にも異なる部分がありました。
結果、大きくは2つの意見がありました。
一つはやはりニューヨーク・スペシャルは1972年製であり、逆にRiversideロゴの方が実際の工房移転より前から使われていたという説。
もう一つはロゴの住所通り、ニューヨーク・スペシャルが作られたのは工房移転後の1973年、もしくは1974年であったという説。
(その他に1975-1976年頃に作られたのではないかという説もありますが、おそらくこれは違うと思います。根拠は追って書きます。)
さて、そちらが本当なのでしょうか。

そしてもう一つ、ニューヨーク・スペシャルができたきっかけのストーリーとして「ラブレスが刑事と話をしている際に護身用のナイフについて意見を求められ、その場で紙ナプキンにデザイン・スケッチを描いて見せた」というような内容が広く伝わっています。
この話が本当か本当でないかと言われれば、限りなく本当でなかった可能性が高いです。
では、ニューヨーク・スペシャルとは実際にはどのような経緯で作られたナイフだったのでしょうか。
喫茶店で刑事が云々という話は、なぜラブレス氏の近くにいたはずの人の間にまで広まったのでしょうか。

ネットの世界で広く知られている内容=事実ではないことが、どの世界にもたくさんあります。
これから何回かにわたって、ラブレス史上最も有名なこのモデルの誕生について、自分なりに取材した結果おそらくこうだったのではないか、と推察する内容を綴っていきます。
よろしければお付き合い下さい。